DNAなんて、ただのバックアップです〜『脱DNA宣言』
武村政春著（評：漆原次郎）
新潮新書、680円（税別）
2007年11月14日　水曜日 漆原 次郎 
本　 生物学　 遺伝子　 DNA　 RNA　 
2時間30分


『脱DNA宣言　新しい生命観へ向けて』武村政春著、新潮新書、680円（税別）
　科学においては、ある物事を時系列で説明する場合、必ずといってよいほど二通りの方法が存在する。

　一つは、現象が起こった順に説明する「発生順」。宇宙創成を大爆発の瞬間から説明していくような方法だ。もう一つは、現象が明らかになった順に説明する「発見順」。これだと宇宙創成の話も天動説あたりが始まりとなる。

　遺伝子の説明では圧倒的に発見順が主流。ワトソンとクリックによるDNA二重らせん発見、その後の研究の広がり、ゲノム解読、そしてポストゲノムへ、といった具合だ。クリックは、DNAを原点として、たんぱく質の発現までの流れを「セントラルドグマ」という教条にまでした。

　発見順で説明する場合、最初に発見されたものが絶対的な存在となる。生命科学の場合、それはDNAだった。遅々として進まなかった生命科学の歩みを一気に加速させたインパクトもあり、教条の原点はこの分野の中心にいまも鎮座している。

　このDNA中心主義に対し、小さいけれど確かな反抗が始まった。

〈私はここで、「DNAは絶対的なものである」という考えを今こそ捨てるべきであることを提言したい〉

　「生物はDNAに支配されている」という、常識になりつつある考え方を改めるための「脱DNA宣言」がなされたのだ。

DNAに代わる主役
　著者は30代の分子細胞生物学者。前著『DNA複製の謎に迫る』（講談社ブルーバックス）では、DNAが複製された後の過程を、詳細かつ正確に、何よりユーモラスに描いていた。本書でも、たとえば「触媒」を、自身は変化せずに別の物質の化学反応を促進させる性質から「鬼教師」に喩えたりする。「騒がしい教室の中に、鬼教師が入ると室内は静かになる。その後、鬼教師が出て行った後もその状態は保たれる」と。

　だが、本書の印象は前著とは異なる。上記の宣言に代表されるメッセージ性が強くなったからだ。そもそも、なぜ著者は「脱DNA宣言」に踏み込んだのだろう。

　著者は、人の人生をも運命づけるような「DNA中心の思考」は、「分かりやすいが、その結果、真実への追求がそこで止まってしまう可能性も含まれている」とし、さらには「思考そのものがそれで完全に止まってしまうように思われるのだ」と警鐘を鳴らす。

　そこで著者は、生物学の舞台に新たな主役を登場させた。「RNA（リボ核酸）」だ。

　DNAからたんぱく質が発現するまでには、DNA塩基配列が転写、翻訳され、アミノ酸が作られていく過程をたどる。RNAはこの転写、翻訳の段階で重責を担う。遺伝情報の伝え手、たんぱく質の作り手、その材料の運び手など、役割はさまざまだ。

　もっとも、著者がRNAをDNAに代わる主役に推すのは、その役割の多彩さだけが理由ではない。遅れてきたマルチ役者には、DNAをしのぐほどのスター性が秘められていたのだ。
たとえば、ヒトゲノム中の遺伝子の割合は2％であり、あとは無用の長物と思われてきた。しかし、理化学研究所などの研究で、ゲノムの70％以上がRNAに転写されていることがマウスでは発見されたという。

　これを事務に喩えると、100枚ある書類のうち、他部署への業務連絡に必要な2枚分をコピーすれば済むところ、余計なはずのものも含め70枚分もコピーされていた、というわけだ。不要と思われていた書類、すなわち非遺伝子のDNAがなぜコピーされたのか。RNAには、これだけの情報を伝達する価値のある、未知の機能があると考えたほうがよさそうだ。

　また、父親の遺伝情報（ヒトの精子）には、受精後の胚形成に大きく影響するRNAが含まれていることが明らかになったという。DNAだけが遺伝情報を司っているわけではないのだ。

　さらに、RNAのほうがDNAよりも古くから存在していたという、生物学の根幹に関わる仮説も紹介される。RNAは38億年ぐらい前まで、DNAとたんぱく質の両方の働きを兼ね備えていたらしく、DNAの材料はRNAから合成される点、RNAを遺伝子にするウイルスが現存する点、DNA複製はRNAが合成されてから行なわれる点などが根拠となっている。

　こうした解明がなされているにもかかわらず、いまだにRNAは地味な存在のままでいる。理解のしづらさがあるだろう。A（アデニン）とT（チミン）、G（グアニン）とC（シトシン）という2組の暗号文字だけで遺伝情報が成立する、デジタルで明解なDNAに比して、RNAは形も役割も複雑。著者も脱DNA宣言を「『分かりやすさ』への反抗」と述べる。

　では、RNA中心の世界は訪れるだろうか。

ひとつの見方に凝り固まるな
　本来、遺伝情報はDNAを介さず、RNAからRNAに複製されていたという説がある。その世界では、DNAはそのバックアップコピーとなるわけだ。いま行なわれているDNAによる遺伝子複製も、バックアップ機能のほうが安定感があるからだという。

　新しい世界観の到来を誘発するには十分な説に思える。DNA中心の凝り固まった生命科学に変化の兆しが見えてくる。

　脱DNAが完了する日。それは、RNAが生命の世界を大いに語る舞台が整う日であろう。そこにDNAは登場しない。または完全な脇役に回っているはずだ。RNAを始まりとした「発生順」による説明を目にする機会が多くなれば、それが生命科学の常識であり中心的教条になるかもしれない。

　本書でRNA中心の世界を描くことに挑戦した著者は、DNAに引きずられない生命の新しい世界観を作り出す科学者の急先鋒といえる。

（文／漆原次郎、企画・編集／須藤輝＆連結社）




